1. Home
  2. 乳がんの手術と術後の治療
  3. 手術前の薬物療法について

手術前の薬物療法について

乳がん手術の前に抗がん剤による治療を先行することを"術前化学療法"または"ネオアジュバント(術前補助)化学療法"といいます。

抗がん剤が進歩する以前は、術前治療の効果については懐疑的な意見が多かった

乳がん手術の前に抗がん剤による治療を先行することを術前化学療法じゅつぜんかがくりょうほうまたは“ネオアジュバント化学療法(NAC;neoadjuvant chemotherapy)”といいます〔ネオアジュバントという言葉は、手術前の補助治療という意味で用いられています〕。

術前化学療法は、1970年代の乳房切除術全盛の時代に、主としてがんが局所に拡がっていて、手術だけでは完全に取り除くことが難しい患者さん(局所進行乳がん)の手術の効果を高める目的で行われてきました。効くと考えられる患者さんもありましたが、その効果については必ずしも肯定的ではなく、手術後に行う化学療法と比べて、治療の最大の目的である“予後(生存率)の改善”には結びつかないと考えられてきました。

しかし、最近は優れた抗がん剤やホルモン療法剤が開発され、手術と組み合わせることで治療効果を高めることができるようになったことから、これらの治療を手術と対等の立場で用いるという意味で、手術前に行う薬物療法をPST(primary systemictreatment;一次全身療法)と呼ぶことも提唱されています。

手術前の薬物療法は、次のような効果を期待して広く行われるようになっています。

手術前の薬物療法の主な目的・効果―

手術前に薬物治療を行うと、治療効果を確認しやすい

優れた抗がん剤を組み合わせることにより、乳房温存率の向上をはかり、予後の改善が期待できます

手術前の薬物療法の主な目的・効果

手術前の治療に用いられる薬剤と治療計画

最近は、手術前に化学療法のほか、ホルモン療法を行うこともあります

術前の治療計画は、下表に示した事項を指標にして検討されます。

まず、しこりの大きさや年齢、腋窩リンパ節転移の有無、病理学的悪性度(異型度)ホルモン受容体【ERイーアールPgRピージーアール】、HER2ハーツータンパク質の検査結果などに基づいて化学療法を行うのか、ホルモン療法を行うのか、両者を併用するのかを決めます。

化学療法で多く行われているのは、アンスラサイクリン系の薬剤と、タキサン系の薬剤を順次投与する方法です。縮小効果が認められれば、それぞれを3ヵ月ずつ、計6ヵ月続けた後に手術となります。ホルモン療法の場合は、通常、術前に4~ 6ヵ月程度投与します。

HER2の過剰発現が確認された場合は、これらの薬剤に加えて、HER2タンパク質の働きを抑える分子標的治療薬ぶんしひょうてきちりょうやく(抗HER2薬)の追加が考慮されます。抗HER2薬の術前治療の有効性は欧米の臨床試験で報告されており、わが国でも2011年11月より術前の化学療法における使用が保険適応となりました。

術前治療でがんの縮小の程度が悪い場合や、手術後の病理学的診断でさらなる化学療法が必要と判断された場合は、手術後にも化学療法を行うことになります。ホルモン療法の場合は、長期間の治療が必要となりますので、通常、手術後も継続投与します。

抗がん剤やホルモン療法剤の種類、詳細は「手術後の薬物治療」ページをご覧ください。

手術前の治療計画で考慮される因子

  1. しこり(がん)の大きさ
  2. 年齢
  3. 腋窩リンパ節転移の有無
  4. 組織型、病理学的悪性度(異型度)
  5. 薬物療法への反応性
    乳がん診断時に行う針生検〔太針穿刺組織診(CNB:core needle biopsy)〕で採取した組織を用いて検査します。

ホルモン受容体
・エストロゲン受容体ERイーアール
・プロゲステロン受容体PgRピージーアール

乳がん細胞のホルモン依存性の程度を予測するための検査。ERやPgRが陽性の乳がんは、女性ホルモン(エストロゲン)の働きで増殖する性質があると考えられるため、ホルモン療法の効果が期待できる。
ERとPgRが陰性の場合は、化学療法が薬物治療の中心となる。

HER2ハーツータンパク質/遺伝子

HER2タンパク質は、がん細胞の表面に存在する受容体の一つで、これが刺激されると細胞の増殖が促進する。HER2が過剰発現している場合(乳がん患者の約25%)は、HER2タンパク質の働きを抑える分子標的治療薬の効果が期待できる。

監修:順天堂医院 乳腺センター 霞 富士雄