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乳がん治療法の考え方の変化

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最近は手術と他の治療法を組み合わせて、可能な限り手術を縮小する方向で、治療法が検討されています

すでに述べたように、最近は乳がんの治療法に関する考え方が大きく変化しています。考え方の主な変化をまとめると次のようになります。

ただし、乳房や腋窩えきかリンパ節(わきの下のリンパ節)を含めて手術する範囲を縮小できるかどうかは、がんの性格と進行度によって大きく異なります。これからこのページで述べることを参考にし、あなたの病気の状態を考えながら、どの方法がよいか医師とよく話し合ってください。

乳がんの進展と手術法の考え方の変化

手術で必要以上に大きく切除しても治療成績は上がりません

乳がんはこれまで、ある一定の段階までは局所にとどまり、乳房の周囲のリンパ節(特に腋窩リンパ節)を通って、全身に拡がると考えられてきました(図のA)。このため、手術で乳房とその周りの組織やリンパ節を広く切除してしまえば、がんの全身への進展をくい止めることができると考えられ、小さなしこりであっても乳房とその周りの組織を広く切除する手術(特に胸筋合併乳房切除術:ハルステッド法→参照)が優先され、各種の拡大乳房切除術も試みられました。しかし、手術範囲を拡大しても、ハルステッド法を超える手術成績は得られず、逆に、手術範囲を縮小してもハルステッド法の成績とほとんど差がないことが判ってきました。このため、乳がんには患者さんそれぞれに適切な大きさの手術があると考えられるようになり、手術の縮小化に向けた研究が続けられました。この結果、乳房温存術に放射線照射を加える乳房温存治療と乳房切断術の長期生存率に差がないという報告が発表され、乳がんは、局所から全身へと段階的に進展するのではなく、あるものは比較的早い段階で全身へ拡がっている可能性のある"全身病"であるという考え方が起こってきました(図のB)。

乳がんの進展に関する2つの考え方

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乳がん治療の成功度は、手術時に全身への転移が起きているかどうかで決まります

つまり、手術で局所のがん細胞を完全に取り切れたと思われても、目に見えない微細ながん細胞が全身に拡がっている可能性があり、乳がん治療の成功度は、手術の大きさやリンパ節の郭清度(手術で取り除くリンパ節の範囲)だけによるのではなく、手術の時に全身への転移が起きているかどうかで決まると考えられるようになりました。

ですから、手術で必要以上に大きく切除する必要はなく、それぞれの患者さんに適した手術を行い、ごく微細ながん細胞が全身へ転移している可能性があると思われる場合には、その程度を予測しながら、局所的な治療(手術±放射線照射)に全身的な効果が望める薬物治療(化学療法やホルモン療法)を加えて、乳がんを根絶させる治療が行われるようになっています。

手術に別の治療を組み合わせた総合的な治療で
乳がんを根絶させることが一般的な考え方になっています

こうした考えに基づき、わが国でも、しこりが比較的小さく、がん細胞の局所への拡がりが少ない患者さんに対しては乳房を温存し、放射線照射や全身的な治療を組み合わせる治療法が広く行われるようになりました。

<参考>従来の標準的な手術:胸筋合併乳房切除術(ハルステッド法)

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この手術法は、長い間、乳がんの最も標準的な手術法とされてきたものです。この手術法を確立した外科医の名前をとって"ハルステッドの術式"と呼ばれます。
乳房全部(皮膚を含む)に加えて、大胸筋と小胸筋を切除し、腋窩リンパ節と鎖骨下のリンパ節を郭清します。近年は乳がんの手術が縮小化し、<標準的な手術法>に説明してある大胸筋や小胸筋を残す"胸筋温存乳房切除術"や"乳房温存手術"が行われるようになったため、すでに歴史的な手術法となり、この手術法を行うことはほとんどありません。

<胸筋合併乳房切除術の長所と短所>

長所

がんが乳房や周辺の組織にとどまっている場合には、がん細胞を完全に取り除くことが可能です。大胸筋と小胸筋を切除するので、視野が広く浅くなくなって、胸筋のうしろにかくれているリンパ節を前方から郭清しやすく、大胸筋にがんが拡がっている場合や、リンパ節を十分郭清したい場合の手術に適しています。

短所

肋骨を覆っている筋肉を切除するため、手術した後、腋窩ひだがなくなって、わきの下がへこんでしまい、肋骨が浮き出た状態になります。腕や肩の運動障害を生じやすいので術後の十分なリハビリテーションが必要です。腋窩リンパ節を広く郭清し、大胸筋を切除するため、リンパ液の環流が悪くなって腕のむくみを生じ、胸筋温存乳房切除術より、皮膚の知覚障害、しびれや不快感が残ることが多少多くなります。

監修:順天堂医院 乳腺センター 霞 富士雄